東北哲学会/第51回大会/研究発表要旨


数学におけるクーン主義的革命の可能性について

塚本高也(東北大学大学院)


 数学的知識の発展が「調和と直線的進歩」という形を取っているという伝統的見解は支配的なものであった。だが、クーンの『科学革命の構造』の影響から従来の数学の歴史記述に疑問が投げ掛けられるようになって以来、数学の歴史の中に見い出される革命的論争や変化の存在が注目されるようになってきた。この議論の発端は、数学史家マイケル・クロウがパラダイム論を数学に適用して、10法則にまとめた論文にある。彼はパラダイム論のほとんどの議論が数学史理解に役立つと考えたが、科学革命に相当する革命的変化が数学で起こることを否定した。これに対して、数学でも革命が起こったという観点からドーベンがクロウを批判し、また、キッチャーも革命的変化を認める立場を展開するようになった。
 その後、数学においても科学革命に相当する革命的変化が存在するのかの是非が問われるだけではなく、その関連問題も検討されることになっていった。どのような数学的発見法が使用されているのか、数学的知識は累積的に進歩するのか、科学的変化と数学的変化との違いはどこにあるのか、など、多くの問題が取り上げられている。また、数学における革命と看做される事例研究が進んでいき、革命的変化の歴史過程も分析されている。この議論の中では、最終的な結論といえるものは依然として見い出されていない。だが、クーンの影響は数学の歴史理解を多角的な視点から問い直す重要な契機になった。
 本発表では、クーンのパラダイム論を数学に最初に応用したマイケル・クロウの見解を最初に取り上げる。そこから「数学における革命」を中心とした諸問題として、数学的知識の累積性、可謬性、研究の指針となる方法論の役割などに特に注目して考察していく。最後に、私はこれらの諸問題について一定の結論を与えるつもりである。


51回大会プログラムに戻る
ホームに戻る