第 53 回東北哲学会研究発表要旨

<コスモス・ノエートス>をめぐって―フィロンとプロティノス

田子多津子(秋田大学)

本発表においては、<コスモス・ノエートス>という語を手がかりに、アレクサンドリアのフィロンとプロティノスにおける可知的世界の意味づけを検討し、両者のプラトン解釈の特色の一端を明らかにしたい。

 <コスモス・ノエートス>という語は、現在伝存する文献上では、フィロンにおける用例が初出である。フィロンは『世界の創造』において、「創世記」第1章の世界の創造を解釈する際に、この語を用いている。フィロンによれば、創造の一日目には可感的世界の範型としての可知的世界が創造されたのである。無論、フィロンはユダヤ教徒の立場から聖書解釈を行っているのであるが、そこにはプラトンの『ティマイオス』の叙述が色濃く反映しており、彼が当時のプラトニズムに深く接し、そのプラトン解釈の影響を受けていたことがうかがえる。

プロティノスは、フィロンと200年ほど時を隔ててはいるが、アレクサンドリアという共通の土壌で思想形成し、自らの著作はプラトンの思想の解説にすぎないとすら述べている。プロティノスも、たとえば『エンネアデス』U,9,4において、この世界は可知的世界(コスモス・ノエートス)の模像にすぎないと述べており、他の箇所においても可感的世界の範型としての可知的世界にたびたび言及している。しかし、他面、プロティノスは、われわれ各自が可知的世界であるとも述べているのであって(V,4,3)、彼においては、われわれ各自の根源への還帰という側面において可知的世界はいわば内面化され、独自のとらえ方がなされていると考えられる。





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