リンクは自由!
『月刊言語』第27巻(1998)8月号, pp.102-103 掲載

インターネット言語学情報 第8回 ― 音声学

後藤 斉


WWWは一般にインターネットの代表的な利用法と見なされているが、その一因として 文字情報だけでなく画像や音声、映像など多様な情報を発信・受信できること、つまり、 マルチメディア性が挙げられる。もっとも、この種の情報はサイズが大きくなりがちであり、 時としてインターネットの混雑のもとにもなっている。また、 WWWでは見栄えの伝達は 保証されていないので、読者の環境によっては作者の意図とは全く違うものが伝えられる 可能性もある。インターネットが多種多様なコンピュータから成り立っている以上、 ウェブページの作成にあたっては、特定の環境に依存しないページの構成が望ましい。 筆者の 「よいウェブページを書こうとする人のためのヒント」 <http://www.sal.tohoku.ac.jp/~gothit/webauthoring.html> を参照していただければ幸いである。

とはいえ、音声や画像そのものが情報の中心であって文字で代替できない場合は、 マルチメディア性を積極的に活用してしかるべきである。その一例として、 音声学での利用にもおもしろいものがある。

国際音声学協会のページ <http://www.arts.gla.ac. uk/IPA/ipa.html> はそれほど内容が豊富ではないが、国際音声字母の表の最新版があり、 またコンピュータで使える国際音声字母のフォントに関する情報もまとまっている。 英語音声学検定試験や IPAカセットの案内もあるが、これらに関する実質的な情報が置かれて いるのはロンドン大学 J.C. Wells教授のページ <http://www.phon.ucl.ac.uk/home/wells/home.htm>である。IPAカセットは 1995年に発売されたが、 筆者にとって最初のインターネット・ショッピングであったので、個人的に思い出深い。 昨年末には新たにCD版が刊行されたとのことである。なお、 Wells教授のページは、 英語のほかにウェールズ語、ドイツ語、スペイン語、エスペラント、スウェーデン語の ページもある、多言語ページの模範例にもなっている。

Resources for Studying Human Speech <http://weber.u.washington.edu/~dillon/PhonResources.html> は、英語を中心とするが、 画面上で IPAの記号をクリックするとその音声のサンプルをオンラインで聞けるし、 音声転写の練習もできるようになっている。

岩手大学工学部三輪研究室による 「マルチメディア・音声情報処理」のページ <http://sp.cis.iwate-u.ac.jp/sp/indexj.html> では、日本語の音節や例文の音声を、 波形やスペクトログラムと対照させることで、音響音声学を学ぶことができるように なっている。さらに、国語教育や日本語教育への応用も試みられている。 波形やスペクトログラムの読み方は、Spectrogram Reading <http://www.cse.ogi.edu/CSLU/cse551/> でも基本から学ぶことができる。 音声言語処理のウェブサイトは枚挙にいとまがないが、徳島大学工学部北研究室の 「WWW上の音声言語処理に関する情報」 <http://www-a2k.is.tokushima-u.ac.jp/member/kita/NLP/index-jp.html> に情報がまとまっている。

音声学の理解には音声器官の知識が不可欠だが、特に喉頭部の構造と動きについては、 The Voice Center at Eastern Virginia Medical School <http://www.voice-center.com/> の説明がわかりやすく、イラストも綺麗である。 ATR人間情報通信研究所 Mark Tiede氏のページ <http://www.hip.atr.co.jp/~tiede/> では、MRI(核磁気共鳴画像法)画像やX線映画を見て、 いくつかの音を発音する際の声道の形を確認することができる。

音声学は工学や生理学とも密接に関係しているが、これら隣接諸分野の情報に たやすくアクセスできることも、インターネットの長所に数えることができる。 しかしながら、インターネットの情報伝達は安定性に欠けるきらいがあり、 印刷物やテレビ放送、ビデオ・CD-ROMなどのパッケージソフトの方がすぐれている 面もある。多様なメディアの長短を理解して使い分けることが必要になってくるであろう。

(ごとうひとし/言語学・ロマンス語学)


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「インターネット言語学情報」

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