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『エスペラント』(La Revuo Orienta) 第77巻(2009)12月号, pp.6-7. 掲載

de vorto al vorto (6) vera

後藤 斉


『エス日』では形容詞 vera の基本義として「実在のものに合致した」としています。この単語は、中心的な使い方はそれほど難しいわけではありませんが、うまく使うことで表現の幅を広げることができます。

分かりやすいのは「真実の, 本当の」と訳語がついた第一義で、言語表現の中の情報に誤りがないことを意味します。vera rakonto は作り事の含まれない「実話、真相」です。Ne estas eĉ unu vera vorto en lia aserto. ならば「彼の主張には真実の言葉は一言も含まれていない」となるでしょう。

ke節が現れている場合には、文法規則により、Estas vere, ke ŝi edziniĝis.「彼女が結婚したというのは本当だ」のように、vere と副詞形を使います。また、Estas vero, ke ... と名詞で言うこともできます。ここでは Estas fakto, ke ... としても大きな違いはでませんが、vero (vera, vere) は虚偽に対する真実を、fakto は想像に対する事実を意味するという、基本的な違いがあることは知っておきたいものです。

第二義の「本物の, 真の」も、第一義とのつながりも近く、わかりやすそうですが、いくつかのタイプがあります。まず、vera perlo はイミテーションでない「本物の真珠」、vera pafilo はおもちゃや模造の銃に対する「実物の銃」、vera nomo は偽名やペンネームに対する「実名」、vera patro は、養父などに対する「実父」です。これらでは、veraでない物との対立が明瞭に見て取れます。

vera kialoでは、えてして理由と考えられがちだが実際にはそうでない事に対する「本当の理由」を指します。この取り違えは誤解や無知に基づくときもあれば、当事者が意図的に隠していた場合もあるでしょう。後者の場合、vera, kaŝita kialo のように補うことができます。vera celo, intenco, kaŭzo なども同様です。

vera signifo, senco は、「真意」です。ここでは対立するものはそれほど強く意識されていないようですが、通俗的な理解での意味ないし字義通りの意味でしょう。なお、これらは、la vera signifo de la vorto のように言語表現の意味だけでなく、la vera signifo de la vivo 「人生の真の意味」などのような場合にも使えます。

ある人を vera amiko と呼んだからといって、他の人を偽りの友と見なしたことには必ずしもならないでしょうが、その人がうわべだけの友人ではないこと、さらには、最も友人と呼ばれるにふさわしい人だと言ったことになっています。vera problemo, amo, demokratio, revolucio なども似た使い方で、ほかにも多くの名詞と結びつきます。Li estas vera viro. ならば「彼は男の中の男だ」、Ne ekzistas vera muzeo. は「博物館の名に値する博物館などない」あたりでしょうか。

おもしろいのは、実際にそうでない物を指す場合にも使えることです。プリヴァの古典的教科書 "Karlo" の一節に、屋根裏部屋について Estis por Karlo vera paradizo. と描写する場面があります。屋根裏部屋が主人公カルロにとってはまぎれもない天国に思えたのですね。高層ビルのことを vera urbo en la urbo と表す用例を見かけたこともあります。屋根裏部屋を paradizo と呼び、高層ビルを urbo と呼ぶことは比喩にすぎませんが、ここで vera はその比喩がいかにもふさわしいことを強調しています。

いくつかのタイプを挙げましたが、これらは必ずしも明確に区別できるようなものではありません。それでも、第二義の多彩さを意識することで、表現力を豊かにできることに納得いただけるのではないでしょうか。

派生副詞 vere の第一義「偽りなしに」を動詞の様態を示して使っている例(respondi vere「真実を答える」など)はそれほど多くはありませんが、上で述べたように ke節に伴って現れる vere の形はごく普通です。また、会話では Ĉu vere?「え, 本当か」と確認を求めることはよくありますし、Jes, vere. と肯定の答えの強調として使うこともできます。

vereが最もよく使われるのは第二義「本当に, 実に」で、これは一つには、いろいろな形容詞を強める働きをするのですが、話し手の主観的な評価を表す場合が多いようです。vere stranga, interesa, valora, utila, terura など。特に、もともと強調的な意味を持った形容詞をさらに強める場合が目立ちます。vere grava, mirinda, elstara, impona, unika, triumfa などです。vere tre bone などと、tre で強調された形容詞や副詞をさらに強めることもよくあります。vere ĉio, nenio などの強調も似ています。

これと少し違うのは、「名前だけでなく、実質をともなって」と理解できるような例です。vere internacia etoso, profesia laboro などの表現があります。なお、Neniu vere zorgis pri ŝi. は「(表面的に心配した人はいたかもしれないが)本当に(=親身になって)心配してくれた人はいなかった」と解釈できます。

vere のもう一つの使い方として、動詞、特にその断定を強める働きがあります。Mi vere kredas, ke ...では「誰が何と言おうと」といった感じ、Ĉu vi vere pensas tiel? のような疑問文では「念を押してたずねるが」といった感じです。

もう一つ、vereには「表面を取り繕わないで真実を述べますが」という、発言に対する話し手の態度を表す使い方があります。普通、Vere, mi ne scias bone.「実のところ、よく知りません」のように文頭に置かれます。これは、se diri la veron や verdire と言い換えてもほぼ同じ意味です。

vera の反対語には、malvera のほかに falsa があります。malvera の頻度はあまり高くなく、malvera atesto のように言語表現に関する使い方が主です。falsa は、falsa pasporto「偽造旅券」のように人間による意図的な偽造を含意することが多いのですが、falsa konkludo は、「(状況にまどわされてつい下してしまいがちな)誤った結論」のように、そうでない場合もあります。

なお、すでに述べたことからわかるように、文脈によっては fikcia 「フィクションの」、imitita「模造された」、ŝajna「みかけ上の」、supraĵa「表面上の」なども vera の反対語として働くことに注意しましょう。


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