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『エスペラント』(La Revuo Orienta) 第80巻(2012)5月号, pp.18-19. 掲載

de vorto al vorto (29) perdi

後藤 斉


『エス日』ではperdiの基本義を「意に反して, 自己の所有物を所有しない状態になってしまう」とした上で、第1義を「<物・人を>失う, なくす; <人と>死別する」としています。当たり前のようですが、自分の意志によって所有物を放棄することはperdiではないということを「意に反して」という部分で念を押しています。これは、別の観点から言うと、対象のものが手放したくないもの、あるいは、所有しているのが常態であり望ましいものである、ということにもなります。

最初の例文「perdi sian monujon 財布をなくす」にその最も典型的な使い方が現れていますが、容易に理解できるはずです。次の例文「perdi sian okupon 失業する」では対象は抽象的なものになっていますが、難しくはないでしょう。havi taskonと言えることから、これも広い意味での所有に含まれると理解しておきましょう。

『エス日』ではこのような使い方も第1義に含めて、全部で第6義まで挙げています。PIVではperdiを第1義から第5義に分けています。抽象的な使い方をどのように細分するかは迷うところがあり、分け方そのものにこだわるべきではありません。さまざまな使い方を見てみましょう。

なお、目的語になっている失う対象は文脈上特定された物であることが多く、上に挙げた例のように所有形容詞や冠詞がつくこともよくあります。ただし、以下では、例文を句として挙げるときは省略することがあります。

種々の財産も時としてperdiの対象になります。perdi domon, terenon「領土[地所]」などです。なお、perdi monujonでは一時的に紛失した場合も含むのに対して、perdi domonは借金のかたに取られるなどして所有権を喪失する場合でしょう。

perdi自体は一時的な失い方でも恒久的な失い方でもよく、対象物の性質や前後の文脈から決まることになります。perdi mononでは、どちらの場合も考えられそうです。恒久的な場合は、definitive「決定的に」やpor ĉiam「永久に」を添えてそれをはっきりさせることができます。

具体物と抽象物の境目は必ずしも明確ではありません。perdi tronon, krononは、表面上は王座や王冠という物について述べているように見えすが、実際にはtronoもkronoも「王権」という転義で使われていて、結局「王権を失う、廃位される」の意味になっています。

perdiの目的語になる名詞は幅が広く、網羅的に挙げることはとてもできそうにありません。主なタイプとしては、特長や能力(perdi forton, kapablon, saĝon, valoron, ekvilibron, c^armon, brilon, gravecon, aktualecon, allogon)、他者から得ている有利な状況(perdi privilegion, avantaĝon, renomon, prestiĝon, favoron, subtenon)、他者との関係(perdi kontakton, ligon, amikecon)、特に優越的な関係(perdi influon, gvidadon, regon「制御、コントロール」)などが挙げられます。

友好的な関係にある人(perdi amikojn, subtenantojn, abonantojn, membrojn, membraron)の場合は、例えば友人が友人でなくなってしまう、という状況です。一方、perdi sian patrinonは「母に死別する」の意味が普通の使い方でしょう。perdi amat(in)onでは、文脈によってどちらもありそうです。

『エス日』では第2義となっている「精神的な活動」が関わる場合も、第1義とそれほど隔たってはいないようです。perdi konscion, paciencon, prudenton, sencon, senton, memoron, trankvilon, esperon, fervoron, fidon, intereson, kredon, kuraĝon, emonなどがあります。

『エス日』の例文の「perdi brakon en batalo 戦闘で片腕を失う」のように体の一部を失うことも時としてありえます。もう少し穏当なのはperdi harojnでしょうか。面白いことにperdi vizaĝon「面目を失う」という表現もあります。vizaĝoを「 面目, 体面, 面子」の意味で使うのは中国語からの影響のようなのですが、ある程度通用しています。ただ、まだ熟していないと感じる人もいて、書くときに引用符で囲ってそれを表しているようです。

失う程度が甚だしいことを伝えたいことがよくあります。tuteのほかkomplete, pleneなどの副詞でそれを表すことができます。また、perdi ĉian esperon, ĉiun rajton, la tutan havaĵonのように強調することもできます。

perdiは意に反することであるので、Perdu...!という命令文はあまりつかわれません。Iru kaj perdu vian vivon!「行って、お前の命を捨てよ」など限られた状況ではありえますが。一方、Ne perdu ...!という否定命令文ならばごく普通に使われていて、Ne perdu esperon!「希望を失うな」など、いくらでもあります。

同様に、por perdiという表現はあまり使われません。ほとんどは、Mi havas nenion por perdi.「失う物は何もない」、Ni ne havas tempon por perdi.「無駄にする時間はない」などの否定の文脈です。それに比べてpor ne perdiはかなり自由に使われます。Venu tuj por ne perdi la bonan ŝancon「好機を失わないように、すぐ来なさい」など。

ne voli perdi「失いたくない」というつながりでよく使われることは予想できるでしょう。Li ne volas perdi sian influon.「彼は影響力を失いたくないのだ」などです。

それに対してriski perdiやtimi perdiといったつながりは思い浮かびにくいかもしれません。Vi riskas perdi ĉion.「すべてを失うかもしれないぞ」、Mi timas perdi la postenon.「地位を失うのがこわい」などです。kun la risko perdi sian laboron「仕事を失う危険を冒して」、pro timo perdi la profiton「利益を失いかねないというおそれから」などの表現もあります。

「しかねない」という懸念は、可能性を意味するpoviを使って表すこともあります。Kelkmil personoj povas perdi laboron.「数千人が失業しかねない」、Mi povus perdi ŝian fidon.「ひょっとして彼女の信頼を失いかねない」など。

自動詞化の接尾辞-iĝ-をつけたperdiĝiも「なくなる, 消える, 行方不明になる; 無駄になる」の意味でよく使われます。Mia valizo iel perdiĝis survoje.「スーツケースがどうした訳か途中でなくなった」は分かりやすいでしょう。ザメンホフ訳『ことわざ集』には、Perdiĝas per pruntedono amiko kaj mono.「お金を貸すと友達とお金が失われる」があります。


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