高校副教材「妊娠しやすさグラフ」をめぐり可視化されたこと

田中 重人 <http://tsigeto.info/16y>
(東北大学)
シンポジウム「少子社会対策と医療・ジェンダー: 「卵子の老化」が問題になる社会を考える」 報告アウトライン (2016-06-18)

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以下、スライド用アウトライン

//から始まる行はコメントあるいは発言内容です。スライドには出ません。

[スライド (PDF)]

自己紹介、全体構造 【1分】

報告概要

2015年8月 副教材問題

使用中止・回収を求める会

副教材「妊娠のしやすさ」改竄グラフ問題 【3分】

「妊娠のしやすさ」改竄グラフ問題

//【画像】「女性の妊娠のしやすさの年齢による変化」

文部科学省『健康な生活を送るために』(2015年8月改訂) 40頁

訂正

//【画像】「女性の妊娠のしやすさの年齢による変化」訂正前と訂正後

グラフの来歴と意味

//【4枚のグラフの画像】Bendel + Hua (1978) → Wood (1989) → O'Connor et al. (1998) → 吉村 (2013)

自然出生力集団での早婚の女性の出生パターン

//台湾のデータと、北米のキリスト教フッター派

//伝言ゲームのように、コピーされるたびにグラフが変化。「22歳ピーク」は後世の創作。 //だから、副教材の「訂正」は、訂正になってない。

//それに加えて、そもそもこのデータは医学的な妊孕力の低下を示すものではない。 //25歳未満での結婚した女性に限定して、結婚からの時間経過に従って子供が減っていく現象を反映している。 //1978年の論文の翌年 (James 1979) には批判されており、それへの反論はない。 //30年前に決着のついた話。

研究史

//【研究史の画像】

//被引用数は少なく、過去の一研究として紹介されるか、批判対象。

//Wood (1989) でも O'Connor et al. (1998) でも批判すべき先行研究としての位置づけ。

改竄グラフ使用履歴

2013年 6月25日: 吉村泰典 ブログ記事
2014年 3月 5日: 厚生労働省「妊娠と不妊について」(動画)
2014年 8月11日: 吉村泰典 ブログ記事 (「女性手帳」正当化)
2014年11月15日: 吉村泰典 ブログ記事
2015年 3月 2日: 日本産科婦人科学会など9団体「要望書」
2015年 3月 4日: 吉村泰典 講演資料
ブログ記事は現在も修正なく公開中

http://d.hatena.ne.jp/remcat/20160331/falsified

http://d.hatena.ne.jp/remcat/20160528/mhlw

改竄グラフはどう使われていたか

//【画像】グラフを見せながら説明する吉村氏

日本産科婦人科学会など9団体

「誤りがあったことは残念ですが、すぐに適切なグラフに差し替えるなど、事後の対応に問題はなかったと考えています。」

高校保健・副教材の使用中止・回収を求める会 質問状に対する回答 (2015年12月25日付)

http://fukukyozai.jimdo.com/stop/関連資料/20151203/

その他のグラフ 【6分】

IFDMS

//【「日本はトルコの次に知識が低い」画像】

//少子化社会対策大綱の数値目標:34点→70点。

//少子化危機突破タスクフォース (2014)「女性手帳」提言時の資料にも。

International Fertility Decision-making Study (IFDMS)

Starting Families Survey

18か国、12言語で調査

//本当に調査できていればすごい話であるが…

調査票を見てみると…

「妊娠とは受胎能力、つまり女性が妊娠し、男性が父親になる能力を意味します」

「ご自身がまだ妊娠してないと思われている潜在的理由」〔男性に対して〕

質問順序の違い

対象者選択の問題

国際比較できるような調査ではない

//というか、そもそもまともな「社会調査」として成立していない

日本産科婦人科学会など9団体

「「スターティング・ファミリーズ」調査は、妊娠・出産の知識レベルが、日本は各国に比べて低い水準にあるという傾向を示すものとして、適切であると考えております」

高校保健・副教材の使用中止・回収を求める会 質問状に対する回答 (2015年12月25日付)

http://fukukyozai.jimdo.com/stop/関連資料/20151203/

//まともな調査でないものを、まともな調査であるかのように強弁

日本生殖医学会サイトのグラフ

//【画像】日本生殖医学会の4本線のグラフと、Menken et al. の10本線のグラフを並べて表示

//傾きが急に見える

//■のラインは、もとのグラフでは、17世紀のジュネーブのデータと19世紀のノルウェーのデータをつなげたもの。それになぜか「20世紀」のキャプション。

//▲のラインは、もとのグラフでは、20世紀の北米のハテライトのデータだが、これに「17世紀」のキャプション。

http://tsigeto.info/16m

多数のウェブサイトで使われる都市伝説的グラフ

//【厚生科研報告書の画像】

Dunson ほか (2002) のグラフ

// 【画像】Dunson ほか (2002) のグラフ

//少子化対策大綱制定の時の会議のもの。

//日本生殖医学会理事長が副教材について出したコメント (2015年9月7日) では、O'Connor et al. (1998) Fig 3 を教材に載せることを正当化する「エビデンス」としてDunson (2002) をあげている: http://www.jsrm.or.jp/announce/089.pdf

//家族計画センターに相談に来た人のデータ。基礎体温などと、性交の記録を付けてもらって分析。

//排卵日二日前の妊娠の確率が突出して高く、これが年齢が上がると大幅に落ちていくように見える

Colombo + Masarotto (2000) との比較

// 【画像】Dunson ほか (2002) のグラフとColombo + Masarotto (2000) のデータによるグラフを並べて比較

//元データでは、年齢による違いはほとんどない

//ベイズ推定で、相当強引なことをやっているはずだが、その説明がない。

//引用文献 (Dunson (2001) など) から見当がつく範囲では、排卵2日前に必ずピークが来て、性交頻度が高いほどピークが高くなるモデル。 //つまり、このグラフの形状にも、年齢による違いにも、データ上の妥当性はない。

まとめ

専門家への不信 【3分】

産婦人科の研究力、低すぎ?

何が強調されているか

//ランダムに変なデータが出てくるわけではなく、特定の方向に偏っている

「少子化対策」として売り込み

//「女性の妊孕力は年齢とともに大きく低下するのに、それを知らないため安易に結婚を遅らせている。無知な大衆を啓蒙すれば結婚が早まり、子供が増える。」

「少子化対策」売り込みの例

//【画像】 日本家族計画協会「学校教育の改善求め要望書提出: 本会、日本産婦人科学会など9団体」『家族と健康』732 (2015年3月)

この問題はましな方では?

医学がデータを独占していたら?

//(医学的「エビデンス」は大概そうである)

たとえば……

妊娠中の飲酒は「注意欠陥多動障害 (ADHD) と関連があるとの報告もあります。」

『健康な生活を送るために』p. 21

http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2015/08/17/1360938_07.pdf

//妊娠中に飲酒をしていた母親が出産した赤ちゃんに成長障害や中枢神経の障害が現れることがあります。これを「胎児性アルコール症候群」といい、頭が小さいなどの特徴的な顔貌になることがあります。また、近年、注意欠陥多動障害 (ADHD) と関連があるとの報告もあります。(『健康な生活を送るために』p. 21) //【飲酒女性の画像】

具体策 【2分】

市民は専門家を監視できるか

ブラックリスト作成

//【8枚のグラフ】 //これらのグラフを無批判に取り上げたことのある論者は信用しないという原則

試作品

http://b.hatena.ne.jp/remcat/blacklist/ ←まだ作ってません (2016-06-05 現在)


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報告要旨PDF

関連するサイトとページ:


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