政策研究の多様性のために

日本社会学会 第88回大会 (JSS88) 報告要旨案
「政策研究の多様性のために：ワークライフ・バランス以外の男女平等政策を」
田中 重人 (東北大学)

問題：
・政策研究は特定のテーマに集中する傾向がある
・実証研究による否定的根拠がいかされず、ダメそうなテーマの研究が大量に行われつづける一方で、有望そうな新しいテーマの開拓が行われない
→なんのために実証研究をやってるのかわからない

解決の方向：
・研究テーマの多様性を確保する
・通常の政策研究で使われるPDCAサイクルや類似の思考枠組みでは、テーマ設定自体を再考する契機がない
→PDCAの限界を補い、研究テーマ自体を見直す契機を研究枠組みに組み込む必要がある

方法：
・未来の多様な可能性を想定する枠組みの採用
→これを可能にする枠組みのひとつとして Ideology-Institution Dynamics with Causal Modeling (IIDCM) を提唱する

IIDCMの内容：
・私たちが社会状態について、どうあるか／どうあるべきか／どう行為すべきかを認識する「イデオロギー」と、イデオロギーに基づいてできた「制度」、そのもとでの行為が社会状態を作り出すメカニズムの実証的な認識という円環でとらえる（PDCAの上位互換）
・イデオロギー（社会の状態や行為主体の行為に関する信念の体系）の６領域への分割
→信念相互の「正当化」関係による有向グラフとして記述
・支配的なイデオロギーが行為主体の行為を規定する「制度」をつくる
・行為は、現実の社会に存在する因果的なメカニズムを通じて特定の社会状態を生み出す
・研究者は実証研究を通じてこの因果メカニズムを特定し、そのモデルを構築する
・構築されたモデルは、現実社会がどのように動いているかについての事実指向的信念を形成する
・この信念は、社会状態がどのようにあるべきかを指示するマクロな価値指向的信念と結合して、特定の行為主体（たとえば政府）がとるべき行為を指示するミクロな価値指向的信念を生み出す
・このような信念体系（＝イデオロギー）が支配的になれば、それにしたがった規範が生じ、それに沿って制度がつくられる
・イデオロギーは多元的であり、ある信念を正当化する信念と否定する信念が共存することがしばしばある
→例：出生数を増やすべきというマクロな価値指向的信念が児童給付は出生を促進する効果を持つという事実指向的信念と結合して児童給付を正当化するのに対し、親が子供の生活を保持すべきとするミクロな価値指向的信念はそのまま児童給付を否定する
→どちらかがヘゲモニーを握るか、政治的な妥協が行われるか

これでなぜ多様性が確保できるか：
・おなじ目標に対する異なった基準
・ある基準を実現するための複数のルール
・ルールを正当化／否定する信念とそれらの間の力学を明示的に考察範囲にふくめる
→オルタナティブの探索範囲を合理的にきめられる

使用例：
・WLB
・離婚改革
・普遍的児童給付

使用上の注意：
・機能的等価物の探索
・政治的言説との対応
・実現可能な未来についてのシナリオ作成
・シナリオ分岐点とその要因の明確化

参考：
http://b.tsigeto.info/251
http://tsigeto.info/15z
http://b.tsigeto.info/266