編者の言葉

 『考える青春』は「青春のエッセー 阿部次郎記念賞」第1回から第3回の受賞作品の選集で、全部で31編を収録しました。筆者はいずれも日本の高校生です。
 阿部次郎(1883-1959)は東京大学出身の有名な近代日本の哲学者で、文豪夏目漱石に師事しました。阿部次郎は後に日本の東北大学の教授をつとめました。『三太郎の日記』、『人格主義』に代表される作品は、当時の話題作でした。阿部次郎の作品は探求の精神に輝いており、日本の若者の間に大きな反響を呼びました。
 阿部次郎を記念するため、東北大学文学部と阿部次郎記念館は東北大学創立百周年の2007年に「青春のエッセー 阿部次郎記念賞」を創設して、すでに4回開催しました。私たちは東北大学の長谷川公一教授から最初の3回分の受賞作品の原稿をいただきました。文章は十分に熟達しているとは言えませんが、頁を繰るごとに感動を覚えます。是非、中国の同世代の人びとに紹介したいと思いました。
 エッセーが扱っているテーマは古典文学と伝統文化、国際文化交流、環境保護、精神的成長、人間関係、愛情、科学と人間、食の安全など幅広いものです。いずれも作者の真摯さと誠実さが感じ取れる文章です。

「向日葵」

 「向日葵」の筆者は中学生だった時、死まで真剣に考えた時期がありました。最終的には家族の助けで暗い陰を乗り越えることができ、これからはひまわりのように太陽に向かって人生を歩んでいこうと決意します。大変率直に、自分の内奥を打ち明けています。叙情的かつ感性ゆたかに、少女の純真な心を表現しています。

「孤独の科学」

 「孤独の科学」では、ネット中毒していた筆者は、中学生時代に、コンピュータの仮想世界の中に多くの友達をもっていました。しかし高校受験のために、一年間インターネットから離れていると、ネットに復帰しても、以前のネット友人は一人も残らなかったとのことです。筆者はこの事実に驚くとともに、現実世界にもっと積極的に関わるようになっていきます。文章は比較的シンプルですが、大変考えさせられる内容です。

「川底のハリネズミ」

 「川底のハリネズミ」は「ハリネズミのジレンマ」の比喩を用いて、コミュニケーションには適切な距離が必要だということを巧みに説明しています。なお、この作品は日本の高校の入学試験で問題文として使われたとのことです。

「女子社会」

 「女子社会」は、常に互いにほめ合うことを心がける必要があるなど、女子高校生同士の付き合いの暗黙のルールを打ち明けています。大変おもしろい内容です。

「ミルクティーの底」

 「ミルクティーの底」は、ミルクティーの話から、発芽を防止し貯蔵期間を長持ちさせるために、じゃがいもに放射線を照射することを批判しています。若者の食の安全に対する関心の高さを示しています。社会への鋭い洞察がうかがわれます。

「日本がなせる巧みの技、弁当」

 「日本がなせる巧みの技、弁当」は繊細な観察眼が印象的です。小さく見える一個の弁当にも、日本の伝統文化の特質や日本人のものづくり精神が凝縮されています。

「くん太の死」

 「くん太の死」では、筆者は、愛犬の死から命の大切さを体得しています。命の尊さを畏敬しています。細密な文章表現と描写が特徴的です。

「木村先生へ」

 「木村先生へ」は、手紙のかたちで中学の国語の先生を思い出しています。教師とわんぱくな生徒との対立を取り上げて、好き嫌いがはっきりしている先生の姿を生き生きと描き出しています。

 この本に収録されているエッセーは、日本の高校生世代の、社会問題に対する理解や思考を反映しています。彼らの世界観・価値観・人生観が鮮やかにあらわれています。この本を読むことによって、中国の青少年は日本の同世代の人達の考えや日常生活を理解できるでしょう。この本が、中日両国の若者の間の心の架け橋になれればと願っています。
 ちょうど作品集の編集が終わる頃、日本は百年に一度あるかないかの巨大地震、巨大津波と原発事故の危機に直面しました。日本国民とりわけ本書の多くの若い著者たちの故郷に近い東北地方の沿岸部は極めて厳しい試練にさらされています。世界は日本に暖かいまなざしを送るとともに、これだけの大災害でも日本人は沈着冷静かつ秩序正しく行動していることを称賛しています。一つの民族の精神は子どもの頃から養われ、鍛えあげられるものです。エッセーは正に民族の精神の結晶なのです。『考える青春』をとおして、読者は納得されることでしょう。
 本書が出版されるにあたって、エッセーの原稿を提供くださった日本の東北大学の社会学の教授である長谷川公一先生と出版に尽力した編集者たちに心から感謝・敬意を表します。

 譚晶華

2011年3月 上海外国語大学

カバー見開き・扉のことば

 『考える青春』に収録されている一本一本の作品はまるで一枚一枚の誠実な自画像のようです。思春期特有の鋭い感受性と個性的な表現力に溢れています。思春期という人生の黄金時代は多感な時代でもあります。長い間心の奥底に秘めてきた想いを文章に託すことは、自分自身との、そして周りの世界との快い対話です。

教育家が推薦!

作者ひとりひとりの生活への愛・社会問題への関心・日常生活への繊細な観察が感じ取れます。彼らは率直に自分のリアルな成長体験を述べています。完全な人間性・高尚な道徳・生きがいの追究を示しています。

繆水娟(浙江省中国語特級教師)

これは日本の高校生の心の声です。彼らの価値志向、ものの見方・考え方、本音が躍動しています。

唐盛昌(上海の中学校長)

高校時代は人生の重要な成長段階です。この黄金の青春時代はパッションやわけのわからない不安に溢れています。エッセーを書くことは高校生の自己成長の確認です。『考える青春』に収録されている作品は、青年特有のものの考え方を体現しています。

呉穎民(華南師範大学副学長、華南師大付属中学校長)

この本は心を落ち着けて、注意深く読む価値があります。

徐伝徳(中共南京市委教育工委書記)