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MY INTEGRATE日本学 教員インタビュー

国際的な経験と国際的な
人脈を活かし、
他分野の
研究者との協働を。

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東北アジア研究センター 准教授

デレーニ アリーン Alyne Delaney

東日本大震災をきっかけに、社会的持続性に関心。
東日本大震災をきっかけに、社会的持続性に関心。

私は2003年にアメリカ・ピッツバーグ大学大学院を修了し、博士号を取得しました。博士論文では、漁村地域での社会的なつながりが海洋資源を入手する際に重要となっていった経緯をまとめるとともに、その経緯が海洋環境の健全性とどう結びついているかを考察しました。この研究のスタートは1991年にまで遡ります。日本文化に興味があり、宮城県の沿岸部に知り合いがいたことから、沿岸地域の生活やライフスタイルを知るために、漁業協同組合の妻たちを対象にインタビューを始めたのがきっかけでした。

その後、研究拠点をヨーロッパに移し、デンマーク・オールボー大学時代には、デンマークとヨーロッパの漁業について研究を行いました。この経験は、それまでの日本での研究をより広く考える助けとなったと思います。

2011年3月に発生した東日本大震災では、私の主な研究フィールドの一つである宮城県沿岸部を津波が襲いました。この年の10月には、津波で大きな被害を受けた宮城県七ヶ浜町で短期のフィールドワークを実施し、漁村での生活再建の動きや彼らの生産活動の復帰を支援するための政策展開について調査を進めました。以来、「社会的持続性と災害などの変化に直面したときの回復力」が私の主要な研究テーマの一つとなっています。私は、文化には本質的な価値があり、これを保護し擁護する必要があると考えています。そのための方法の一つが、強靭な社会づくりに貢献する社会的持続性についての研究なのです。

「日本の故郷」である宮城県で、沿岸地域をフィールドとした研究を。
「日本の故郷」である宮城県で、沿岸地域をフィールドとした研究を。

2015年10月からの数か月間は外国人研究員として、さらに2018年4月からは准教授として、東北大学東北アジア研究センターに着任しました。私が初めて本格的なフィールドワークを行った場所、それが宮城県の沿岸部です。調査のため海外からやってきた私に対し、宮城の人々はとても親切に接してくださり、彼らと時間や生活を共にすることを認めてくれました。以来、宮城県は私にとって「日本の故郷」となりました。

研究・学術環境の面で、東北大学はとても優れた大学であり、東北アジア研究センターに加わるチャンスがおとずれたとき、私が喜んで応じた理由もそこにあります。また、東京から新幹線で約2時間、都心に程近い距離にありながら、日本有数の漁場にも近く、また、身近に山や平野もあります。私が専門とする人類学は研究対象がとても幅広く、一つの場所にいてもさまざまなテーマを研究することができます。その点、東北大学の立地は理想的で、学業や研究の質、地域の社会や環境など、これほど好要素が揃っている場所は珍しいのではないでしょうか。

これまで私は、他分野の研究者、特に自然科学者と一緒に仕事をしてきました。研究目標を達成する上で、これは非常に重要なことです。私はいま、漁業管理に関して、欧州委員会、オランダ政府、アイルランド政府のアドバイザーを務めています。それは、漁業管理の研究には社会的側面からの研究も必要だからです。私のこれまでの国際的な経験、そしてこれまで築き上げてきた国際的な人脈については、東北アジア研究センターの同僚からも高い評価を得ていると思います。

これまでの研究成果を踏まえ、今後は、水質が漁業に与える影響、防潮堤の社会生態学的影響、eDNAプロジェクト(土壌微生物相の解明による土壌生物性の解析技術の開発)、さらに場所への愛着や文化遺産など、沿岸地域をフィールドにしたさまざまな研究に取り組んでみたいと考えています。

学生や教員たちとのコラボレーションに期待。
学生や教員たちとのコラボレーションに期待。

私はいま、人類学の研究者という立場から、日本学国際共同大学院(GPJS)の活動に参加しています。私にとって、GPJSは対話や意見交換ができる研究者の集団です。特に、私は最近、生態学や生物学の面から研究を進めていますが、異なる分野の日本研究者と一緒に日本研究をすることをとても楽しみにしています。例えば、2021年に参加した「Yonaoshi : Envisioning a Better World(世直し:より良い世界を描くために)」というシンポジウムは、非常に刺激的なものでした。今後さらに、学生や他の教員たちとのコラボレーションが生まれることを期待しています。

GPJSの強みは、所属する日本研究者の幅広さとそれぞれの研究の深さだと思います。また、支倉リーグを構成する欧米の大学とのプログラム内での交流はもちろん、他大学の研究者とのつながりも大きな魅力の一つと言えるでしょう。

研究への挑戦の機会に、限界はない。限界を決めるのは学生自身の想像力。

私が所属する文化生態保全学の研究室では、環境と社会文化人類学に重点を置き、伝統的な話題性のある研究だけでなく、より応用的な研究にも取り組んでいます。「机上調査」を行う学生もいれば、人類学の特徴であるフィールドワークを伴う研究を計画する学生もいます。また、日本とアラスカ、ロシアなどとの比較研究を行う学生も少なくありません。研究室には、学生と研究生が一緒になって研究発表の方法を学び、建設的な批判を行い、お互いに助け合う素晴らしい環境があると感じています。

私の研究では、さまざまな調査方法を採用しています。定性インタビューを主としつつ、定量的な調査も行っています。また、地図などの視覚的手法を用いたビジュアライゼーション・ワークショップの仕事も始めました。特に写真や映画などのビジュアルな手法に興味があり、最近はグラフィカルな抄録や映画の編集にも取り組んでいます。指導する学生の中には、アイヌを中心とした教育的観光を研究する学生のほか、東北の民芸品を中心とした視覚的調査法を研究している学生もいます。

私たち教員と同じような興味を持っている学生であれば、もちろん指導はしやすいですが、研究への挑戦の機会に限界はありません。限界を決めるのは、学生自身の想像力のみだと考えます。これまで私は、日本、ヨーロッパ、グリーンランド、アフリカなど、世界中でフィールドワークを行なってきました。人類学を志す学生のみなさんには、「地域を超え、領域を超え、異なる知の統合」をめざすGPJSのプログラムをチャンスとしてとらえ、世界をフィールドにした研究に挑戦してほしいと願っています。

Profile
  • 東北大学 東北アジア研究センター 准教授。
    セントポール マカレスター大学(米国ミネソタ州)卒業(人類学/日本研究学士)。2003年、ピッツバーグ大学大学院博士課程(米国)修了、文化人類学博士。漁業管理沿岸地域開発研究所(デンマーク)の研究員を経て、2008年、オールボー大学プランニング学部(デンマーク)の准教授に。東北大学東北アジア研究センター外国人研究員(客員准教授)を経て、2018年より現職。
  • 主な研究分野:文化人類学、日本民族誌、沿岸文化
  • 東北アジア研究センター 組織