研究科長・学部長から

ごあいさつ

東北大学文学部・文学研究科は、百年近い歴史を持ち、人文学・社会科学の多くの分野で優れた研究成果を生み出してきました。その基盤の上で、現在も専門性の高い教育を行っています。その研究対象や方法論はきわめて多彩で、哲学・文学・歴史といった主に文献や史料を扱う人文学的な部門から、言語・社会・心理など調査や実験をもとに実証的な研究を行う分野まで広範囲をカヴァーしています。そしてそこには、「人間」の心と行動を理解するという明確な主題が存在しています。
かつては実学に対して虚学などという言い方もされましたが、近年は、実社会の諸問題の解決に人文学・社会科学が直接的に関わるケースが増えてきました。複雑に絡み合った価値意識や世界観を読みほどき、賢明な合意形成への道筋をつけるために、「人間」のあり様を多面的かつ繊細に解読する「知」が必要とされるからです。
歴史や文化や社会の研究は、「人間」がどのように物を考え、何を信じ、どう行動してきたか(しているか)を探究するものだと言えます。それは単にある対象・事象についての知見を増すというよりも、ほかならぬ私たち自身がどのようにして今現在のあり方に至ったのかを理解すること、つまり広い意味での自己認識を持つことにほかなりません。そうした自己認識が深く豊かであればあるほど、未来へ向けての意思決定もより賢明なものになりうるはずです。
現在、文学部・文学研究科は、これまでの「知」の蓄積を基盤としながら、変化する時代にそくした教育・研究のかたちを模索し、自己変革を遂げつつあります。2019年4月には新たな3専攻体制の博士前期・後期課程をスタートさせました。また、グローバルな日本研究を推進する一環として、ヨーロッパの約20の大学と協力して日本学国際共同大学院を創設しました。震災後、被災者支援の経験を踏まえて出発した実践宗教学寄附講座は開設8年目を迎え、ここを巣立った臨床宗教師は社会で活躍しています。計算人文社会学や防災科学など文理融合型の研究もさらなる広がりを見せています。
こうした変化は、文学部・文学研究科における「知」の課題、つまり自己認識の深化に基づく問題解決能力の向上というメイン・テーマに沿ったものです。学び思考することと、よりよく生きることとの総合を、私たちは目指しています。

東北大学大学院文学研究科長・文学部長
森本 浩一