コロナ禍のなか
巣立つ皆さんへ

文学部長・文学研究科長 柳原敏昭

卒業・修了される皆さん、おめでとうございます。

皆さんにとって様々な意味での総決算となるこの1年間が、コロナ禍に見舞われ、大変なことだったと思います。一時は、大学にも行けない、友達にも会えない、サークル活動ができない、アルバイトができない、外出さえできない、就活もままならない、そのような状況であったことでしょう。特に留学生の方は、異国の地で「緊急事態」が発生し、本当に厳しい状況だったと思います。

我々教員も、昨年の4月頃には、本当に今年度は授業を実施できるのだろうか、卒業生・修了生を送り出せるのだろうかと大変心配をしました。

それにもかかわらず本日、学士208人、修士96人、博士20人を送り出せることに、例年とは異なった感慨を覚えます。そして、みなさんの頑張りを讃えたいと思います。とはいえ、予定されていた学位記授与式・伝達式が、宮城県における感染拡大によって大幅縮小せざるをえなくなったことは、返すがえすも残念です。

皆さんは、コロナ禍が収束しないうちに、社会に出たり、あるいは進学したりすることになります。まだまだ紆余曲折があるに違いありません。しかし、皆さんは東北大学で、次のようなことを学び、力量を培ってきたはずです。

一つ目は、広い視野と長い時間のなかで物事を考えること。二つ目は、複数のモノサシをもって、様々な角度から物事を見ること。そして三つ目は、実証と論理を大切にすること。

これらは一生の宝物です。また、色々な場面で応用が可能です。どうか自信を持って新しい世界に乗り出していってください。

さて、奇しくも今年は、東日本大震災から10年目に当たる年でもありました。思い起こすと10年前、私たちは色々なことを体験し、見聞きし、それらを忘却の彼方に押しやってはならないと強く思いました。それが、現在どうなっているかと考えると、心許ないものを感じます。

翻って、今直面しているコロナ禍についても、これだけは忘れないということをいくつも持っているはずです。震災のことも、コロナ禍のことも、それぞれの立場で、しっかり記憶し、記録し、将来につなげていく。歴史的に希有な経験をさせられてしまった世代の責務と考えていただければと思います。

簡単ですが、以上をはなむけの言葉とします。

今こそ学び取った
叡智を活かす時

東北大学文学部同窓会副会長 鈴木瑠璃子

令和2年度学位記を授与された皆様、まことにおめでとうございます。皆様を陰で支え、はげましてこられましたご父兄の皆様も感慨深くこの日をお迎えの事でしょう。例年とは異なり、このような形でしか諸先輩の方々のお祝いと同窓会への歓迎のお気持ちを伝えられないことは、大変残念な事と存知ます。目に見えないウイルスによって、私共のささやかな日常がかくも無残に粉々にされてしまう、などという状況は予想もできませんでした。こうして否応なしに、激しい変化を迎える時代に社会に乗り出して行かれる皆様に、同窓会の一員として私は、こういう時代だからこそ胸を張って元気に船出して頂きたいと思います。皆様がこの学部で習得されたのは、いわゆる実務、すぐに役立つ技能や知識ではなかったかもしれませんが、きっとこの様な混迷の時代で最も必要な、社会や歴史の流れの文脈を的確に捕える眼だけは少なくとも身に付けられた事と存知ます。それとこれからの皆様方の人生の中で、損得なしに付き合える貴重な友人関係も築かれた事でしょう。文学部出身の私共が誇りとしますのは、ここには長い歴史があり優れた諸先輩が道筋を付けて下さっている事です。まことに恵まれております。この同窓会の有難味に気付かれるには、社会に出てから、かなりの年月が必要になるかもしれません。ですが、それが判ってからでも遅くありません。どうか後に続く後輩達の為にも、わが同窓会網を大切にして頂きたく存知ます。

例年ならこうした「ことば」は、同窓会からの寸志によって開かれる記念パーティーで述べさせて頂く筋合いのものですが、今回はこの簡略の形でのご挨拶となりました。最後に改めて皆様おめでとう!