教員のよこがお

准教授 西村 直子 NISHIMURA Naoko

所属

受け継がれてゆく「私」

 新しいスマートフォンに以前のデータを移し替える度に,考えることがあります。輪廻転生というのは,これととてもよく似ているのではないでしょうか。
 今日のあなたと明日のあなたは,同じ「あなた」だと思いますか?あなたをあなたたらしめているもの,あなたという個人の毎日の連続性を担うものは,何だと思いますか?古代インドの人々は,それを「アートマン」と呼びました。「自己,自我」などにあたる,個人の原理,輪廻の主体を指す言葉です。アートマンは肉体の死後も存続し,胎児の発生に関与して,新たな肉体を伴いこの世に再生すると考えられていました。紀元前8世紀頃以降に盛んに論じられた問題の1つです。これを土台とする輪廻説は,今日に至るまでインドの宗教を貫く公理となっています。当時,この議論に真剣に取り組んだ人々の間では,如何に輪廻を断ち切り解脱するかというのが最大の問題でした。ブッダの悟りも,その延長線上に位置づけられます。
 クローン,人工知能など,現代は技術革新の目覚ましい時代です。あなたのクローンが誕生したら,それはあなたと同じでしょうか,別でしょうか。新しいテクノロジーがもたらす新しい価値観への扉は,インドの古い議論から辿り直したその先にも,きっと見つかるでしょう。

  • 研究・略歴
  • 著書・論文等
  • 主要担当科目
    インド学概論,インド学特論,インド学研究演習,パーリ語
    略歴
    仙台市出身。宮城教育大学教育学部卒,東北大学大学院文学研究科修了。東北大学大学院文学研究科助手。東北大学,宮城学院女子大学,東北学院大学非常勤講師。
    学位
    博士(文学)
    研究分野
    インド学。ヴェーダの文献,言語,祭式。仏教へと至る思想,社会,生活の変化。
    研究課題
    ヴェーダ文献成立史。ヴェーダ祭式とその変遷。神話と儀礼。牧畜と乳加工を中心とする,古代インドの生活。胎児の発生,輪廻説,家族制度の相互関係。
    研究キーワード
    ヴェーダ文献,ヴェーダ祭式,古インド・アーリヤ語,古代インド
    所属学会等
    印度学宗教学会,日本印度学仏教学会,日本仏教学会,インド思想史学会,仏教思想学会
  • 主要著書
    『放牧と敷き草刈り-Yajurveda-Saṁhitā冒頭のmantra集成とそのbrāhmaṇaの研究』東北大学出版会 2006年
    『GAV-古インド・アーリヤ語文献における牛-』大島智靖,西村直子,後藤敏文(共著),総合地球環境学研究所インダス・プロジェクト 2011年
    主要論文
    「prajā́kāma-とputrákāma-」『印度学仏教学研究』67, 2019
    「ヴェーダ文献に辿る『祭主の人生』」『論集』43, 137-159. 2017
    “The Development of the New- and Full-Moon Sacrifice and the Yajurveda Schools: mantras, their brāhmaṇas, and the offerings” Vedic Śākhās: past, present, future: Proceedings of the Fifth International Vedic Workshop, Bucharest, 2011. Harvard Oriental Series, Opera Minora 9, 227-250. Cambridge: Harvard University, 2016
    “úlba- and jarā́yu-: Foetal appendage in Veda” Journal of Indological Studies 24-25, 169-186 2013-2014
    「ヴェーダ文献における胎児の発生と輪廻説」『論集』36, 69-93. 2009 [2010]
    “The mantra g(h)oṣád asi in the Yajurveda” Münchener Studien zur Sprachwissenschaft 63, 109-119. 2003 [2009]
    受賞
    印度学宗教学会賞(2007)
    日本印度学仏教学会賞(2009)