「中華」のレシピ

　私は美味しいものが好きで，自宅でよく簡単な料理を作るのですが，歴史の研究は料理に少し似ています。素材を探して吟味し，これまでの調理方法を調べ，その到達点を明らかにし，自分で実際に調理して新しい一品を作る。食べる人にサーブするまで気を抜けないところや，苦労して作ったものを好き勝手言われるところも同じです。
　ところで現在の日本の教育では，歴史的な思考力や判断力を養うことが要請されています。今後の歴史教育では生徒が知識をただ摂取する（暗記する）だけでなく，自分で調理（解釈）してみることが求められるのだと思います。
　その際重要なのは，素材（史料）の正しい調理方法を身につけることでしょう。誤った方法や偏った見方，怪しい素材で作った料理は，不味いだけでなく，有害でもありえます。まして包丁を握ったこともない人が，教師として生徒に調理指導などできるでしょうか。
　私の研究分野は中国古代史，特に「中華」世界の成り立ちを竹簡や木簡から読み解くことです。限られた分野ですが，史料と向き合い，議論するのは，緊張感に満ちた楽しい時間です。これからも腕を磨いていきたいと考えています。