概要

恵まれた研究環境と伝統の底力

夏目漱石

東北大学文学部の母体は、1922年(大正11年)、仙台市片平丁に開設された東北帝国大学法文学部です。第一次世界大戦(1914-1918)後の、大正デモクラシーの時代のことで、法文学部にはこの大正後期から昭和初期にかけて、日本の人文科学の近代化をリードする教授がそろい、その教授たちの講義は、人文科学を学ぶ学生のみならず、教育学、法学、経済学を学ぶ学生をも魅了しました。法文学部の発足は、1907年(明治40年)の東北大学の創立から15年後のことでしたが、発足当初から研究環境に恵まれ、とりわけ、大学の附属図書館では、狩野亨吉の膨大な旧蔵書(今日も、人文学関係書を主とする約十万八千冊の書籍から成る一大コレクション「狩野文庫」として附属図書館が所蔵する)を備えるなど、質量ともに優れた図書を十分に活用できる環境にありました。

その後、第二次世界大戦が終結するまでの戦時のように、学問・研究への思いも断たれるほどの不幸な時代がありましたが、そうした苦難の中にあっても、この恵まれた環境は保たれ、いっそうの充実を遂げました(たとえば、附属図書館では、夏目漱石の旧蔵書約三千冊を収める「漱石文庫」など、貴重な蔵書・コレクションが増え続けました)。1949年(昭和24年)に、東北大学が新制大学として再出発し、文学部が発足しても、1973年(昭和48年)に、キャンパスが片平から現在の川内に移転しても、 2004年(平成16年)に、他の国立大学と同じく東北大学が法人化しても、「研究第一主義」という全学の理念とともに、その伝統は確実に受け継がれ、文学部の様々な場に今も息づいており、伝統の底力をしみじみと実感する機会も少なくありません。

地に足を着け、世界に臨む
─深まりを究め、広がりを知る─

 東北大学文学部には現在26の専修があります。その多彩さは多様性と個性を重んずる人文社会科学のあり方にふさわしいものです。そこには、少人数教育を重視し、ひとりひとりの関心や長所をたいせつにする学びの場が用意されています。専門的な知識と思考法を深く学ぶことは、人文社会科学の幅広い基礎知識や、基本的な語学力を身につけることと決して矛盾しません。深い専門的な知と広い基礎的な知とが結び付くところに、人間の存在、文化、社会を根源的に問い直す「実学」としての人文社会科学の本領が発揮されます。そこでは、全学の伝統的理念である「研究第一主義」が、全学のもう一つの伝統的理念「門戸開放主義」へとそのままつながります。学の深まりこそが学の広がりを保証し、その新たな広がりこそがさらなる深まりをもたらします。

 このような学びの場である東北大学文学部は、地域社会に深く根ざし、国際社会に広く開かれた学びの場でもあります。学部内に東北文化研究室という機関もあるように、東北地方の文化についての研究が積極的に進められ、その成果は授業の場に大いに生かされています。また、五人の外国人教員がおり、海外からの多くの留学生が在籍し、学術交流協定を結んでいる大学をはじめとする海外の大学に留学する機会にも恵まれ、海外の学者を招いての講演会やシンポジウムもしばしば開かれているように、文学部はまさに国際的な場でもあります。

そして、未来へ
─人文社会科学の底力を発揮する─

 21世紀はさらなる情報化と合理化に向かって科学技術が飛躍的に発展し続ける時代となるでしょう。そのような世界であるからこそ、人間の存在、文化、社会を根源的に問い直す「実学」としての人文社会科学の重要性は増して行くはずです。東北大学文学部は、その「実学」を担う新人が巣立つ学舎であり続けます。伝統は清新であり続けることで保たれます。東北大学文学部の伝統を支えるのは、清新なみなさんなのです。
文学部の26専修と教員については「研究室紹介」「教員のよこがお」をご覧ください。