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『エスペラント』第67巻(1999)1月号, pp.6-7 掲載

「世界言語権宣言」とは

後藤 斉


「世界言語権宣言」といってもあまり知られてはいないでしょう。 人権にかかわる宣言・条約である「世界人権宣言」(1948)や 「人種差別撤廃条約」(1965)、「女子差別撤廃条約」(1979)などは国連総会で 採択されたものであるため、批准した各国政府はそれを遵守し、それに応じた 政策を実行することになっています。その理念が完全に実現されてはいないに しても、これらの宣言・条約の認知度はかなり高いと言えるでしょう。 それに対して、「世界言語権宣言」はこのような意味で公式に認知された 宣言ではありません。

「世界言語権宣言」は、NGOの66団体、41のペンセンター、 41人の言語法制専門家、合計90ヶ国からの220人が国際ペンクラブ 翻訳・言語権委員会などの呼びかけに応えて1996年6月にバルセロナに集い、 それまでの長い検討を踏まえて、採択したものです。この会議にはユネスコの 後援があり、採択された宣言文はユネスコ代表部に提出されました。その後は フォローアップ委員会が作られ、国連総会での採択に向けての活動が行われて いるとのことです。なお、宣言の署名人の中には、エスペラント・ペンセンターを 代表するGiorgio Silferの名前も見えます。

このような事情から、日本には「世界言語権宣言」に関する情報はあまり 入ってきていません。ただ、インターネットを利用すれば、 <http://www.partal.com/ciemen/conf/index.html>や、 <http://www.troc.es/mercator/dudl-gb.htm>、 <http://www.indigo.ie/egt/udhr/udlr.html> などのウェブサイトで宣言文(英語・フランス語・スペイン語・カタルーニャ語)や 関係の解説の文書を読むことができます。

さて、「世界言語権宣言」は、言語権には言語共同体がもつ集団権と 個人がもつ個別権との両方の側面があると考えているところに大きな特徴が あります。また、同一の空間を共有する複数の言語共同体や集団の間で権利の バランスを取ることが、調和のとれた社会的関係のために必須であると 考えています。

もし宣言文に述べられた権利をすべて実現するとすれば莫大な財源が 必要であり、それが直ちに実行できるものでないことは明らかです。 しかし、方策がないからといって権利の有効性まで否定することは 正義にもとる、と主張されています。とはいえ、将来の国連総会での採択に 向けた活動には、新しいアイデアを募り、宣言文を改善していくことも 含まれるとされており、現在の宣言文に必ずしも固執するものではないようです。

個々の条項には、宣言文本文だけからは納得しにくいものもあり、このままの 形でこの宣言が国連総会で採択される可能性は低いでしょう。しかし、すべての 言語の平等を唱える点でエスペラントの考え方と共通しており、普遍的な 人権としての言語を明解に主張する文書として、「世界言語権宣言」は 真剣な検討に値すると言えます。

世界言語権宣言(試訳・抜粋)

(福地俊夫訳 ・後藤斉校閲)

第3条
1 この宣言は、以下の権利を、どんな状況でも行使できる不可分の個人的権利と 考える。

ある言語共同体の成員として認められる権利
私的、公的に自己の言語を使う権利
自己の名前を使う権利
出身の言語共同体の他の成員と関係をもち、交流する権利
自己の文化を維持し発展させる権利
[省略]

2 この宣言は、言語集団の集団的権利が、前項における言語集団の成員に 属する権利に加えて、また第2条第2項に述べた条件通りに、以下の権利を 含むものと考える。

自己の言語、文化を教わる権利
文化的サービスにアクセスする権利
コミュニケーション・メディアにおいて、自己の言語と文化が公平に存在する権利
政府機関から、また社会経済的関係において、自己の言語で注意を払われる権利

3 前項に挙げる個人と言語集団の権利は、そのような個人または集団と ホスト言語共同体との相互関係またはその共同体への統合を決して妨げてはならない。 また、領域的空間のどこでも、共同体自身の言語の十分な公的使用について、 ホスト共同体またはその成員の権利を制限してはならない。

第4条
1 この宣言は、他の言語共同体の領域に移動し定住する人々は、その共同体に 統合する態度を維持する権利を有し、義務を負う、と考える。「統合」という この言葉は、定住した社会との間で十分な基準、価値、行動形態を共有して、 ホスト共同体の成員が経験するより大きな困難なしで社会的に機能することを 可能にしつつ、本来の文化的特性を保持するようなあり方での、そのような人々の 追加的な社会化を意味すると理解される。
2 この宣言は、他方で、独自の文化的特性をホスト社会の規範、価値、行動の 形式によって置き換えられるような形でのホスト社会におけるの文化受容を 意味する「同化」は、強制または誘導されてはならず、全く自由な選択の 結果においてのみ可能であると考える。

第10条
1 すべての言語共同体は、平等の権利を有する。
2 この宣言は、政治的な主権の程度、社会的・経済的・または他の見地から 定義される状況、言語が文字化、現代化、または近代化されている程度、 または他のどんな基準を基にしても、言語共同体に対する差別は認められない、 と考える。


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