第 54 回東北哲学会研究発表要旨

<ロック的但し書き──その含意>

浅野幸治(豊田工業大学)



ジョン・ロックの私有財産論の1側面について1つの解釈を示したい。ロックの私有財産論は次の3つの原則からなっている。
1、私有財産成立の原則(または労働所有論)
 人が労働を加えた物はその人の私有財産になる。
2,私有財産成立の付帯条件(またはロック的但し書き、十分性の制約)
 「他人にも十分なだけ同様な質の物が残されている限り」
3,私有財産の範囲条件(または腐敗禁止の制約)
 腐らせずに利用できる範囲内で
本発表では、このうち2番目の原則いわゆるロック的但し書きについて、それがロックの私有財産論にとって何を意味することになるのかを検討する。

ロックの私有財産論とくに労働所有論は、リバタリアンの権限理論によって私有財産の正当化論としてしばしば利用されている。しかしながら、労働所有論だけではなくロック的但し書きも、ノージックのようなリバタリアンにとっては重要な意味をもつ。例えばノージックは、「所有権論が十分適切なものであるためには、弱い形のロック的但し書きに似た、何らかの但し書きが絶対に必要である」と述べている。

ところが、ロック的但し書きが要求するところを忠実に追っていくと、リバタリアンにとっては思いもよらないような、私有財産権の制約に行きつく。つまり、私有財産の恩恵に与れない人がいた場合、その結果その人が凍死したり餓死したりする場合、私有財産を享受している人がその人をその窮状から救うことを要求するのである。ロックの思想としては、これは驚くに値しない。というのはロックの思想の中には、「慈愛の原理」というものがあるからである。しかしながら「慈愛の原理」は、キリスト教信仰に基づいているように思われるし、正義の原理とは区別された道徳の原理と解釈される余地もある。私の解釈は、「慈愛の原理」が要求するのと実質的に同じことを私有財産権の正当性を保証する要件として、すなわち正義の要求事項として示すものである。




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