元院生からのメッセージ

 私が主査として指導し、課程博士の学位を取得した元院生たちに、1.近況・抱負、2.長谷川から指導を受けたことで一番印象的なことは何か、3.自分の体験にもとづいて長谷川の指導を薦める理由について、原則として120字程度づつ、このサイト向けにメッセージを寄せていただきました。以下は原文どおりです(2009年4月時点、肩書きも当時)。戻るLinkIcon

李 妍焱さん(駒澤大学文学部准教授)

━━━1. 近況・抱負は?

  •  研究テーマは一貫して「人々の自発的な協力関係による問題解決の仕組みは如何にして可能か」です。具体的には日本と中国のボランタリーセクターをフィールドとして、NPOとNGOの活動環境や活動戦略を調査し、その共通点と独自性から、それぞれの社会的文脈、社会的構造、社会的変動の特徴に基づいたNPO/NGO領域の個性的な展開をとらえようとしています。2008年3月に日本で唯一の中国のNGOを専門的に論じた書物『台頭する中国の草の根NGO』を編集し、出版しました。今後5年間は、両国のNPO/NGOのユニークな仕組みを世界に発信し、世界の類似領域とさらなる比較を行うマクロ的な研究と同時に、活動を支えるNPO人、NGO人の生き方、人間関係、価値観などを対象とするミクロ的な研究も行いたいと思います。さらに、日中両国の市民社会が実務的な連携をしていくような仕組み作りにも関わっていきたいです。

━━━2. 指導で一番印象に残っているのは?

  •  一生忘れられないのは、先生に提出したすべての文章に、授業レポートから修士論文、博士論文の原稿に至るまで、必ず細かく先生の赤ペンによる添削が入っていたことです。洗練された日本語の文章に対する先生のこだわりには本当に脱帽です。学術論文だけではなく、エッセイや俳句からも、言葉を愛し、言葉を大切にする先生の姿勢がひしひしと伝わってきます。先生のご指導を受けて、言葉の難しさ、言葉の重み、言葉のすばらしさ、そして言葉を用いる際の心構えを学んだと思います。

━━━3. 指導を薦める理由は?

  •  人の一生において、「先生」はいっぱいいるかもしれませんが、「師」に出会えることは、めったにない幸運です。私の修士論文と博士論文の指導に当たって、長谷川先生はいつも「その論理はおもしろいのか」「そのストーリーは刺激的で興奮するものなのか」と、問うていた記憶があります。「先生」というのは、知識や技術を教えてくれるかもしれません。しかし、「師」は、学問のおもしろさと、学問をやることの快感を教えてくれます。あなたも是非、興奮する論理の世界に、足を踏み入れてみませんか?

帯谷 博明さん(奈良女子大学文学部准教授)

━━━1. 近況・抱負は?

  •  川と社会との関係について、時間・空間の視点から、「運動」「政策」「記憶」「生活」を切り口にしたフィールドワークを続けている。テキスト『よくわかる環境社会学』(ミネルヴァ書房)の編集が終わり、今年度からはベトナム人留学生たちとメコン川流域の環境変化とガバナンスについて共同研究を始める予定。
  • http://www.nara-wu.ac.jp/bungaku/sges/staff.html#obitani

━━━2. 指導で一番印象に残っているのは?

  •  一つに絞ることは難しいが、「常にフィールドと理論との往復運動を」というアドバイスがもっとも印象的である。「研究のポジティブな側面を発見して誉める」という芸風(?)とあわせて、私が院生や学生を指導する時のモットーになっている。

━━━3. 指導を薦める理由は?

  •  環境社会学や社会運動論をはじめ、現代社会学および隣接分野の動向を踏まえた柔軟な視点と非常に広い視野からのコメントは、大学院で研究を開始する人にとってきわめて有益である。適正規模の研究室体制や東北大、仙台という研究環境・生活環境も魅力的。

本郷 正武さん(東北大学大学院文学研究科助教)

━━━1. 近況・抱負は?

  •  HIV/AIDSをめぐる集合行為やスローフード運動を社会運動論の分析視角から検討する他に、「薬害HIV問題」にみる医師−患者関係や、ライフコース分析の観点から「薬害HIV期」の医師や障害児をもつ親の会、さらには女性アスリートの調査研究をしている。

━━━2. 指導で一番印象に残っているのは?

  •  助成金の申請書類の作成も含めて、論文を事細かにチェックしていただいた。学術論文・報告としての「美しさ」、「イケている」研究であるかどうかを見抜く先生の指摘は、研究上の迷いを消し去る力があり、気が萎えている時でも、無性に励まされ、やる気が出た。

━━━3. 指導を薦める理由は?

  •  社会運動論の分析の射程は想像よりも広いが、それらを理論的にカバーできるような指導ができる教員・研究室はほとんどない。先生自身、社会学会あるいは学内外の隣接分野の研究状況を知悉しているので、いろいろな領域に打って出ることができる。

青木 聡子さん (名古屋大学大学院環境学研究科講師)

━━━1. 近況・抱負は?

  •  「名古屋新幹線公害問題の現在」という研究テーマに新たに取り組んでいます。かつて長谷川先生を始めとする研究者グループが対象とし受益圏-受苦圏論を構築するに至ったフィールドが今なお抱える問題とそれと向き合う人々に焦点を当てた調査をしています。

━━━2. 指導で一番印象に残っているのは?

  •  院生の考え方を尊重した指導が特に印象に残っています。実は私と長谷川先生とでは社会運動に対する見方が多少異なっていたのですが、先生の社会運動観を強要するのではなく私の発想を「なるほど。」と認めて下さった上でご指導いただいたことに感謝しています。

━━━3. 指導を薦める理由は?

  •  先生の指導のもと環境運動を分析する力を基礎から養うと同時に、研究室内ではゼミの枠を超えて院生同士で議論を繰り返すことで、視野を拡大し自身の考え方を相対化できました。研究者として成長するための環境がゼミ内外で整っていると言えるでしょう。

土田久美子さん(東北大学グローバルCOE研究員)

━━━1. 近況・抱負は?

  •  この3月末まで在籍していた博士課程では、エスニック・マイノリティ集団による社会運動に関心を持ち、日系アメリカ人による戦後補償運動を集合的アイデンティティ形成に着目して分析した。今後は、エスニック集団の再生産という観点から日系、韓国系アメリカ人コミュニティを対象にフィールドワークを行いたい。

━━━2. 指導で一番印象に残っているのは?

  •  研究助成金申請書や論文作成、さらには学会報告の準備段階にいたるまで、丁寧に文章をチェックしていただいた。そうした指導の際には、どうしたらより説得力のあるプレゼンになるかを一緒に考えてくださったことが、研究上不安な時に大きな励みとなった。

━━━3. 指導を薦める理由は?

  •  先生の指導は、国内外の社会運動論、ならびに近接領域をカバーするという学問的な幅広さに基づいている。その指導の際には、先生の見解を押し付けず学生の考察と判断を尊重する点に、指導する側・される側のあいだの「風通しのよさ」を感じる。